「不動産を売却すると介護保険料はいくら上がる?」と心配されている人も多いのではないでしょうか。
しかし、ほとんどの人は不動産を売っても、介護保険料の値上がりを気にする必要はありません。
平成30年度から介護保険制度が改正され、不動産を売ったときに生じた利益は、減免されることになったからです。
とはいえ、これから不動産を売却する、もしくは売却した人からすると、翌年の介護保険料に不安を感じていると思います。
この記事では、「そもそも介護保険料とは」から「改正ポイントである特別控除の種類」「介護保険料が上がるかどうか計算する方法」について紹介していきますので、参考にしてください。
介護保険料とは?保険料はどのように決まるの?
介護保険料とは、介護保険制度の財源となるお金で、40歳になると支払い義務が生じます。
社会保険料と合わせて請求され、会社員の場合は給与天引きされるのが一般的です。
介護保険料は所得によって金額が決まるため、所得が多い人ほど保険料が高くなる仕組みになっています。
これまでは不動産を売却して利益が生じた場合、その年の所得に加算され、介護保険料が値上がりしていました。
「不動産売却をすると介護保険料が値上がりする」という認識が広まっているのは、そのためです。
2018年度から譲渡所得による介護保険料の取り扱いが見直しに!なぜ改正されたの?
高齢化社会が深刻化する中で、なぜ軽減措置が取られたのか疑問に感じる人もいるかもしれませんが、この改正は被災者に対する配慮によるものです。
東日本大震災などの災害によってその土地に残ることが難しくなり、やむを得ず自宅を手放した被災者も少なくありません。
仕事もできず、新居を準備するのにもお金はかかります。
にもかかわらず、翌年の介護保険料が値上がりしてしまうのはおかしい、という経緯があり、介護保険制度の見直しがおこなわれました。
介護保険料の改正の大きなポイントは、特別控除です。
譲渡所得は特別控除の適用後で算定される
介護保険制度の改正によって、保険料の計算基準が、特別控除の適用後に変更されました。
特別控除は免税のために作られた制度で、適用を受けることで譲渡所得に課せられる税金を節約できるというものです。
これまでは税制と介護保険料は別物として考えられていたため、特別控除の適用前の譲渡所得で介護保険料が算定されていました。
特別控除によって、税制面における所得をなかったことにできたとしても、介護保険料の値上がりからは回避できなかったということです。
では、具体的にどんな特別控除を利用して譲渡所得税および介護保険料を節約できるのか、紹介していきます。
不動産売却しても介護保険料を減免できる特別控除の種類
介護保険料を減免できる特別控除の種類は、以下のとおりです。
(1) 収容交換等のために土地等を譲渡した場合の5,000万円(最大)
(2) 特定土地区画整理事業や被災地の防災集団移転促進事業等のために土地等を譲渡した場合の2,000万円(最大)
(3) 特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の1,500万円(最大)
(4) 農地保有の合理化等のために農地等を売却した場合の800万円(最大)
(5) 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円(最大)
(6) 特定の土地(平成21年及び平成22年に取得した土地等であって所有期間が5年を超えるもの)を譲渡した場合の1,000万円(最大)引用元: 公益社団法人 全国老人保健施設協会
併用できる特例もありますが、介護保険料の計算に適用されるのは、5,000万円が上限額となっています。
それぞれどんな特例なのか解説していきますので、参考にしてください。
収容交換等のために土地等を譲渡した場合の5,000万円の特別控除
「収容交換等のために土地等を譲渡した場合の5,000万円の特別控除」は、公共事業のために不動産を売る人向けの特例です。
この特例を適用すると、譲渡所得を最高5,000万円までなかったことにしてもらうことができます。
5,000万円の特別控除の要件は、以下のとおりです。
(1) 売った土地建物は固定資産であること。
(2) その年に公共事業のために売った資産の全部について収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例を受けていないこと。
(3) 買取り等の申出があった日から6か月を経過した日までに土地建物を売っていること。
(4) 公共事業の施行者から最初に買取り等の申し出を受けた者(その者の死亡に伴い相続又は遺贈により当該資産を取得した者を含みます。)が譲渡していること。
特定土地区画整理事業や被災地の防災集団移転促進事業等のために土地等を譲渡した場合の2,000万円の特別控除
特定土地区画整理事業や被災地の防災集団移転促進事業等のために、土地等を譲渡した場合、2,000万円の特別控除の適用を受けることができます。
専門用語によって分かりづらいかもしれませんが、街の開発や、再び被災するリスクをなくすためという理由などから、国や公共団体から土地の譲渡を依頼された場合に利用できる特例です。
特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の1,500万円の特別控除
「特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の1,500万円の特別控除」は、土地区画整理などによって、国や公共団体に不動産を売却した場合に利用できる特例です。
都市計画法および土地区画整理法による土地の譲渡であることが、適用要件となっています。
宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の特別控除-国土交通省
農地保有の合理化等のために農地等を売却した場合の800万円の特別控除
農地を一定の条件のもと売った場合、「農地保有の合理化等のために農地等を売却した場合の800万円の特別控除」を受けられます。
一定の条件とは、農地保有合理化事業に則って売却した場合を指します。
農地保有合理化事業については、農林水産省の下記の記載を参考にしてください。
「農地保有合理化事業」は、離農農家や規模縮小農家等から農地を買入れ又は借入れ、規模拡大による経営の安定を図ろうとする農業者に対して農地を効率的に利用できるよう調整した上で農地の売渡し又は貸付けを行う事業。
引用元: 農地保有合理化事業の概要-農林水産省
つまり、農地を売却した相手が農家であった場合、800万円の特別控除を受けられるということです。
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除
「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」は、自分が住んでいた家を売るときに利用できる特例です。
他の特例に比べて適用要件が少なく、当てはまる人が多いため、最も利用されている特例です。
3,000万円の特別控除の適用要件
- 住んでいた、または住まなくなってから3年以内であること。
- 売主と買主が、夫婦や血縁関係でないこと。
- 他の特例の適用を受けていないこと。
不動産を売ったときに利用できる3,000万円の特別控除について詳しく知りたい人は、下記の記事も合わせてご覧ください。
3,000万円特別控除の条件や必要書類について初心者にもわかりやすく解説
3,000万円特別控除を初心者にもわかりやすく解説しています。適用条件や確定申告の必要書類、相続した住宅や空き家の場合はどうなるのかについても詳しく紹介していますので参考にしてください。ただし住宅ローン控除のほうがお得になるケースもありますので注意が必要です。
特定の土地を譲渡した場合の1,000万円の特別控除
特定の土地を譲渡した場合の1,000万円の特別控除は、法人が平成21年から22年に取得した不動産を、5年以上所有したのちに売却すると利用できる特例です。
法人が不動産を売却した場合、譲渡所得税ではなく法人税が課せられます。
この特例は、最大1,000万円まで損金に算入でき、法人税を節約できる特例であるということです。
5年以上というのは、取得した日の翌日から売却した年の1月1日までの期間を指しますので、注意してください。
平成21年及び平成22年に取得した長期所有土地等の1,000万円特別控除-国税庁
介護保険料の合計所得金額の計算方法
介護保険料の値上がりは、特別控除の適用を受けることで、ほとんどの場合逃れることができます。
介護保険料が上がるかどうかは、以下の計算式で確かめることができます。
たとえば、取得費4,000万円(減価償却済み)の家を300万円かけて、3,800万円で売却したとします。
この時の特別控除適用前の譲渡所得は、「3,800万円-(4,000万円+300万円)=500万円」です。
3,000万円の特別控除の適用を受けると、「500万円-3,000万円=0円」となり、譲渡所得はなかったことになります。
不動産売却による利益がなかったことにできると、譲渡所得税はもちろん、介護保険料も値上げされることはありません。
譲渡所得が残った場合どうなる?
2018年8月現在の介護保険料率は、全国一律1.57%となっています。
増額する保険料は、「残った譲渡所得×1.57%」で計算します。
ただしサラリーマンの場合、会社と半分ずつ支払う労使折半のため、売主に請求される金額は「残った譲渡所得×1.57%」の半分です。
管理人からの一言「不動産売却時に特別控除の適用を受ければ介護保険料は値上げされない」
不動産売却時に特別控除の適用を受ければ、介護保険料が値上げされることはほとんどないと言って良いでしょう。
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