相続時にトラブルや問題が発生する原因のほとんどが、不動産をめぐるものです。
不動産は分けるのが難しいうえに高額なため、相続人の間で意見が食い違っても仕方がないのかもしれません。
しかし被相続人が遺言執行者を指定して不動産を売却してもらう清算型遺贈をおこなうことで、トラブルになるリスクを回避できるのですから、やっておくべきですよね。
相続人がいない人にとっても、自由に遺贈先を選べるメリットがあります。
- 遺言どおりに執行してもらえることが最大のメリット
- トラブルを未然に防ぐための生前対策としてかなり有効
- 遺言執行者には弁護士などの専門家を指定するのがベター
遺言執行者の選任を間違えると、新たなトラブルの原因を作ることになりかねません。
せっかく清算型遺贈をおこなうのですから、トラブルになり得ることは全て排除しておきましょう。
遺言執行者とは?どうやって決めるの?
遺言執行者とは、遺言に書かれている内容や趣旨をそのとおりに実現する人のことです。
遺言を実現させるために行動する義務があるとともに、相続人の代理として手続きをおこなう権限を持ちます。
遺言執行者の義務と権限については、民法でも以下のように記載されています。
(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。(遺言執行者の行為の効果)
第千十五条 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。
遺言に強制力はないため、作成しただけでは実際にその通りに執行してもらえるとは限りません。
しかし生前に遺言執行者を選任しておけば、自分の希望どおりに遺産分割することができます。
では、遺言執行者には誰を指定すればいいのでしょうか。
利害関係のある相続人を選任するのはやめておこう
民法千九条では、未成年者と破産者以外なら遺言執行者になれると定められています。
しかし配偶者や子供など利害関係のある人を遺言執行者に選任してしまうと、新たなトラブルの原因を作りかねません。
他の相続人から、自分に有利になるように分配しているのではないかと疑われ、クレームを受ける可能性があるからです。
辞退することもできてしまうため、確実に遺言を実行してもらいたいのであれば専門家に依頼することをおすすめします。
弁護士などの専門家を選任するのがベター
遺言執行者には、弁護士や税理士、司法書士、信託銀行などの専門家を指定するのがベターです。
直接、利害関係がないので相続人も納得しやすいですし、煩雑な手続きにも慣れているため安心して任せられます。
特に法律関係にも詳しい弁護士であれば、相続人同士でトラブルが発生しても解決できるノウハウがあります。
税理士や司法書士はそこまで対応できないため、適任なのは弁護士でしょう。
選任方法は、遺言書に記載しておくだけです。
遺言書に記載するだけで指定できるから手続きは簡単
遺言執行者の指定は、遺言書を通しておこないます。
以下のような文言を遺言に記載してください。
東京都◯◯区〇〇1丁目1番地
弁護士 山田 太郎
昭和◯◯年◯月◯日生
事務所の住所と職業、氏名、生年月日を必ず明記します。
ここでは弁護士に依頼する場合の文例を紹介しましたが、基本的な書き方は誰を指定しても同じです。
相続人を指定する場合は、以下のような文例でも問題ありません。
遺言執行者に相続人を指定する場合の文例
また報酬をいくらにするのかについても記載しておかないと、相続人が家庭裁判所で手続きをおこなう必要がでてきますので、忘れずに書くようにしましょう。
遺言執行者に支払う報酬について解説していきます。
報酬についても明確にしておこう!金額は最低30万円〜
遺言執行者には、その働きの対価として相続財産の中から報酬を支払うことになっています。
金額は最低30万円からとなっており、財産の時価総額や手続きの難易度によって相場は異なります。
また弁護士の報酬は自由化されているため、事務所によって多少のズレがある点にも注意してください。
では最低30万円の根拠はどこからくるのかというと、かつて日本弁護士連合会で一律化されていた報酬基準からです。
旧規定ではありますが、現在でも料金設定の際に参考にしている事務所が多いため、目安にすると相場感がつかめます。
経済的な利益の額 | 報酬額 |
---|---|
300万円以下 | 30万円 |
300万円超 3,000万円以下 | 2%+24万円 |
3,000万円超 3億円以下 | 1%+54万円 |
3億円超 | 0.5%+204万円 |
経済的な利益の額には、遺産すべての総額を当てはめてください。
司法書士や行政書士へ支払う報酬の相場は、弁護士よりも安くなるのが一般的です。
ただし上記は基本報酬となっており、以下のように特別な事情のない家庭に適用される料金になります。
基本報酬のみで引き受けてもらえるケースの例
家族構成 | 配偶者と子供 |
---|---|
遺産 | 自宅不動産や預貯金、現金、保険 |
裁判を伴う場合や、通常よりも複雑で特殊なケースの場合は、基本報酬額に上乗せして支払うことになりますので注意してください。
基本報酬を超えるケースの例
- 遺言内容の執行を困難にさせる事由が発生した場合
- 遺贈先が会社や団体である場合
- 法定相続分を受け取れなかった相続人がいるなどして、裁判に発展した場合
遺言執行者に支払う費用は、相続人に渡る遺産から差し引かれます。
できるだけ多くの財産を残すためには、遺言執行者を指定しない方がいいのではないか疑問に感じている人もいるのではないでしょうか。
ここからは遺言執行者を選任して、不動産を売却してもらう清算型遺贈のメリットとデメリットについて解説していきます。
遺言執行者に不動産売却してもらう清算型遺贈のメリットは?
まず清算型遺贈について簡単に説明すると、相続財産を処分し、その処分で得られた金銭を受遺者に分配する方法です。
清算型遺贈をおこなうメリットは、以下のとおり。
- 希望通りに売却してもらえる
- 専門家に依頼しておけば相続人に負担をかけずに済む
- 相続人同士の争いを防ぐことができる
では、一つずつ解説していきます。
希望通りに売却してもらえるから不本意な結果にならない
相続不動産は、空き家問題の最大の原因です。
現在住んでいる家が将来、空き家になって社会に迷惑をかけるのは、不本意ではないでしょうか。
遺言執行者には遺言の内容を実現させる義務があるため、あらかじめ不動産売却を依頼しておくことで確実に処分してもらえます。
また相続人が一人もいない場合でも、清算型遺贈なら遺贈先を自分の意思で決められます。
相続人がいなくても自分の意思で財産の行く末を決められる
男女共同参画局のデータによると、2010年の生涯未婚率は男性が20.1%、女性が10.6%と年々増えており、相続人がいないケースも珍しくなくなりました。
それに伴い、経営している会社や介護などでお世話になった人、地方公共団体などを受遺者に指定し、遺産の行く末を自分で決定する人も増えています。
相続人がいない場合、財産は国庫に帰属されてしまうからです。
財務局が、引き取り手のない不動産を引き受ける場合としては、①所有権放棄、②寄附、③相続人不存在の場合における清算後の残余財産の国庫帰属といった場合が考えられる。
遺言執行者の指定と合わせて、財産をどこに遺贈したいのかまでしっかりと遺言書に記載しておくと良いでしょう。
相続人に負担をかけずにスムーズに手続きが進められる
遺言執行者に弁護士などを指定し、清算型遺贈で不動産を処分するよう取り決めておけば、相続人に負担をかけずに済みます。
相続人が被相続人の不動産を売却するためには、以下のように面倒で煩雑な手続きをおこなわなければなりません。
- 遺言執行者の仕事内容
-
- 財産目録の作成
- 財産目録を相続人へ交付
- 相続人調査
- 相続財産調査
- 相続財産の管理
- 各種遺産の名義変更
親族が亡くなった悲しみの中で、専門的な知識を持たない素人がこれらの仕事内容をこなすのは大変です。
また相続人全員が遺言に納得するとは限らず、反対する人がいれば手続きは進まなくなります。
遺言執行者がいれば相続人の合意がなくても手続きを進められるため、連絡がとれなかったり、遠方にいて集まるのが難しかったりする相続人がいてもスムーズに手続きが進みます。
相続人は遺言の内容に納得するしかなく、必然的に言い争いも起きません。
争いを防げるから相続人同士の関係が壊れない
遺言執行者を決めておくことは、相続をめぐる争いを防ぐことにつながります。
被相続人が何の対策もしていなかった場合、まずは遺産分割協議で相続人全員が売却に合意する必要があります。
相続人のうち一人でも売却に反対する人がいれば、売却することはできません。
合意が得られず売るに売れない状況が続けば、空き家問題へと発展するとともに、親族間の関係も壊れてしまうでしょう。
相続対策は、税金対策だけでなく、相続人同士のトラブルを防ぐためにも非常に大切です。
デメリットは売却代金が安くなる傾向にあること
遺言執行者には利害関係のない弁護士などを選任した方がいいと解説しましたが、トラブルが起こりづらい反面、売却価格が安くなりやすいデメリットがあります。
弁護士や司法書士などの専門家は、不動産を高く売ることにこだわりません。
不動産を高く売ることが仕事ではありませんし、高く売れたからといって利益を得られるわけではないからです。
ただし弁護士も評判は大事にしますので、あまりにも安く売って悪い口コミが広がるのは避けたいと考えます。
とはいえ遺言執行者が不動産を売却する頃には自分はいないのですから、所有する不動産がいくらで売却できるのかわかりません。
自宅不動産がいくらで売却されるか興味がある人は、不動産一括査定サイトを利用して査定してみてください。
インターネット上で物件の基本情報を入力するだけで、不動産会社が見積もりを出して送ってくれます。
利用したからといって売却を迫られることはありませんし、値段が知りたいだけでの利用も認められています。
遺言執行者による不動産売却の流れ
どのように自宅不動産が売却され、遺産が分配されるのか知りたい人もいると思います。
遺言執行者によって不動産が売却される流れは、以下のとおりです。
- 相続人および利害関係者に遺言執行者就職の通知
- 相続財産の管理
- 相続財産の目録の作成・相続人への交付
- 実際の権利移転手続き
- 不動産の売却活動
- 売却代金が相続人に支払われる
通常であれば、遺産分割協議で相続人の中から代表者を決め、代表者が売却するための手続きをおこないます。
遺言執行者を決めていなかった場合に相続人がどんな流れで不動産を処分するかについて知りたい人は、以下の記事も合わせてご覧ください。
相続したマンションは売るべき?相続したときの注意点と売却方法
この記事では親のマンションを相続したときに兄弟間で揉めないための注意点や売却方法について紹介しています。マンションの登記手続きや売却にかかる税金はいくらかを知っておくことで相続税対策をすることもできます。
相続登記も相続人の代わりに遺言執行者がおこなう
相続人が被相続人から受け取った不動産を売却するためには、不動産の所有者を被相続人から相続人に変更する手続きである相続登記をおこなう必要があります。
名義が被相続人のままになっている不動産は、売却することができないからです。
不動産登記手続きは、相続人の代わりに遺言執行者がおこなえることになっています。
登記申請書の作成は司法書士などにおこなってもらうのが一般的で、委任状については相続人が作成する必要があります。
相続税とは別に譲渡所得税がかかるので注意しよう
遺言執行者が売主となって不動産売却する場合、相続人が譲渡所得税を忘れがちになるという点には注意が必要です。
譲渡所得税は、不動産を売却して利益を得た場合に課税される税金で、不動産の売却代金を受け取る相続人に対して課税されます。
受け取った売却代金に対して譲渡所得税がかかることを、遺言執行者から伝えてもらえるようにしておいたほうが良いかもしれません。
また相続人に課税される譲渡所得税額は、購入時の売買契約書が保管されているかどうかによって大きく異なります。
登記識別情報または権利書などの重要書類と合わせて、購入時の売買契約書についても、相続人が分かる場所に保管しておきましょう。
管理人からの一言「遺言執行者による不動産売却は相続人の負担を減らせる」
遺言執行者による不動産売却は、相続人の負担を減らすのに効果的です。
また大切な資産である自宅が空き家になってしまったり、相続財産をめぐるトラブルに発展してしまったりすることを防ぐ効果も期待できます。
この記事を参考に、遺言執行者の選任について検討してみてください。
イエウールで一括査定したら310万も高くなった
管理人がイエウールで自宅マンションを一括査定したところ、街の不動産会社より310万円も高い査定価格をだしてもらえました。
イエウールはクレームに厳しい会社なので、不動産業者からしつこい営業電話がかかってくることはありません。
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